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前川属.とぶカブトムシ(前川@折紙探偵団コンベンション折り図集vol.1)
原作者 前川淳 

とぶカブトムシの完成形が見たい人はここをクリックしてください。
(このリンクは前川氏の承認を受けています)

特徴                  
ひと時、甲虫系の昆虫作品に羽をつけるという共通のテーマで、複数の創作家が作品
を折り合ったことがある。そのきっかけとなった作品がこの、とぶカブトムシである。
私ごとで恐縮なれど、筆者もこの作品に触発されて、とぶ昆虫作品をかなり作った
ので個人的に思い入れのある作品であります。この作品以来、飛ぶ甲虫系の作品が
結構発表されたため、甲虫の飛ぶ姿を折り出すための技法は、かなりはっきりした
ものとなった。それには、いくつかの基本パターンがあるのだが、この作品が示した
パターンは、その中でもかなり大きい柱になっている。
その具体的内容を見ていきたい。
まずは図1の生の展開図を見てみる。典型的な前川方式である、直角二等辺三角形
分子と第二次三角形の組み合わせという展開図となっている。これを解釈するため
には、まず横分子分解だっつ!というわけで図2を見ていただきたい。注目するのは、
外羽と内羽の折り出し方だが、ここではその円領域の位置を確認しておきたい。
すなわち、内羽は用紙辺部の角から折り出されており、外羽は用紙内部からのカドと
して折られている。また昆虫の胸(小じゅん板)に対応するカドがどれかも非常に
重要なポイントである。図2ではそれは用紙の全くど真ん中の正方形が対応する。
ここがまさにポイントなので、しつこく書いてしまうが、「飛ぶ甲虫(前川様式)の
展開図構成上の極めて非常に大変に重要なポイントは、用紙辺部に内羽に対応する
円領域(横分子と同じ意味)があって、それと接する形で外羽の円領域があって、
更にそれに接する形で、用紙内部の中心線上に昆虫の胸(小じゅん板)に対応する
円領域があることである。なお、外羽の円領域は用紙辺部にあっても用紙内部に
あってもどちらでも良い」のである。なぜこれがポイントかというと、それは、

このパターンから甲虫の飛び姿を折るのに必要な条件をうまく満たした基本形が
折り出せるからである。では、当然のことながら甲虫の飛び姿を折るのに必要な
条件を満たした基本形とはどういうものかということになるわけである。それは、
第1に、羽のカドが背側(上側)から出ていて、足のカドが腹側(下側)から出て
いることである。
第2に内羽は薄くて、用紙の裏の白い色を出すために用紙辺部からのカドとしたい
ということである。
さて、これは飛んでる甲虫を表現するためには基本的な条件なの
だが、この条件を折紙で満たすのが結構難しいので、皆が苦しみ、また楽しむところ
なのである。なぜこれが難しいかというと、折紙では用紙辺部からのカドは基本形の
どちらか一面に集まり、またその反対面に用紙中心線上からのカドが集まる傾向が
あるのだが、これが問題となるのである。すなわち,甲虫の足はその位置的要因から
用紙辺部からのカドとして折らざるをえない。これは問題はない。しかし、同じ
用紙辺部から内羽も折らなくてはならない。これが問題の正体なのだ。なぜ問題かと
いうと足も用紙辺部から折り、内羽も用紙辺部から折るということは、すなわち、
基本形の同じ面から足のカドも内羽のカドも出てしまうことになってしまうのだ。
実物の甲虫の内羽は、足のある下側から出ているのではなく、反対の背側から出て
いるのだ。したがって足側に折り出される内羽のカドを何とかして背側にまわし
出さなくてはならないのだ。この内羽を背側にまわし出す技法が、飛ぶ甲虫を折る
ための様式を特徴付けることになる。

さて、これを考える前に、考えやすいように少し展開図を微修正しておく。
図3はこの作品の本来の縦分子系であって、二値分子である第二次三角形が効果的に
使われているのだが、これは少し考えにくいので、図4のような一値分子系に変換
しておく。本来、前川方式における二値性というのは、折り易さや造形上の印象に
独特の雰囲気を与える重要な項目なのだが、ここでは、一般論をするためにあえて
修正した。図4から図3へは実際に折ったもののカドを斜方に引っ張ることで変換
できるので、ご勘弁願いたい。

話を戻して、この作品での内羽を背側にまわし出す技法について見てみる。
概して言ってしまうと、前川様式の飛ぶ甲虫では、羽は、昆虫の胸(小じゅん板)に
対応するカド(これは背側にある)に挟まれ通って、基本形の下側から、背側に
出るのである。しかし、直接、昆虫の胸(小じゅん板)に対応するカドに挟まれる
のは問題になっている内羽ではなく、展開図上で直接胸の円領域の近くにある円領域
から折り出される外羽のカドである。そして内羽のカドは外羽のカドに挟まれる形に
なっているのである。つまり内羽のカドは外羽のカドに挟まれており、その外羽が
胸のカドのカドを挟まれ通って背側に出ているので、結果的に内羽のカドは背側に
出てくるのである。
さて、こういう原理で内羽が背側に出てくるのであるから内羽のカドと
外羽のカドの間、および、外羽のカドと胸のカドとの間には直通している
縦一値性の経路(青線で示す)が必要になるのだ。もしその経路がなかったら、
内羽のカドと外羽のカドの間や、外羽のカドと胸のカドとの間に、関係のない別の
カドが挟まれてしまって(例えば、足のカドとかである)、造形上やっかいなことに
なってしまう。
さてさて、内羽のカドと外羽のカドの間、および、外羽のカドと胸のカドとの間には
直通している縦一値性の経路があるということは、内羽の円領域(=横分子)と
外羽の円領域は接していて、さらに、外羽の円領域と胸の円領域も接しているという
ことを意味しているのである(実際の作品中では帯領域が入ることはあるが)。

以上をまとめると図5のような円領域配置が前川様式の飛ぶ甲虫の基本構造といえる。
これに加えて、図6のように展開図上の残りのところに必要な円領域を配置する
ことで飛ぶ甲虫の基本形がきまるのである。
前川氏の「とぶカブトムシ」の展開図は合理的で、折り方も自然なものであったため、
この基本構造は、後に続く他の飛ぶ甲虫作品にも採用される機会が多いことになった
のである。
最後に図7として、本文で述べたような、とぶカブトムシにおける基本構造部を黄色
で塗った図を示すので、その意味を確認していただきたい。